バカッターやバカスタグラムを投稿させないためには【連載】大人が知らない子供達のネット事情 Vol.9 鈴木朋子/ITジャーナリスト

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すし屋の厨房で魚を切り、その半身をゴミ箱に投げ捨てたのち、すぐ拾ってまな板へーーこんな動画がネットで炎上しました。この行為が撮影された現場は、回転寿司チェーン「くら寿司」。くら寿司を運営するくらコーポレーションは2月6日、公式サイトに謝罪文を掲載しました。

謝罪文によると、動画はアルバイトの従業員による行為で、食材はその場で廃棄処分されて使われておらず、当事者への対応含め法的に厳粛な対応を進めるといいます。

「類似の事故が様々なチェーン店で多発しており、当社も日頃からその対応を懸命に行っておりましたが」とくらコーポレーションが記すように、同種の不適切な動画は他にもあります。その一週間ほど前には、牛丼チェーン「すき家」で股間に調理器具を当てるなどした動画がSNSに投稿され、すき家を展開するゼンショーホールディングスはこの動画に関わった従業員二人を退職処分にしています。

この2件以外にも数多くの動画や画像が過去のデータから探し出されて、次々とシェアされました。テレビやネットでご覧になった保護者の方も多いでしょう。飲食店やコンビニは、高校生以上のアルバイト先の定番でもあります。「まさかとは思うが、我が子も......」と考えた保護者の方もいるのではないでしょうか。

バカッターはバカスタグラムへ

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こうした行為は「バカッター」と呼ばれています。バカッターとは、「バカ」と「Twitter」を足した言葉で、2013年の流行語大賞の候補語にノミネートされるほど、世間を騒がせました。コンビニのアイスケースの中で寝そべる画像を覚えていないでしょうか。該当店舗は、ローソンから契約を解除され、閉店することになりました。また、そば屋の厨房で洗浄機に入るなどした件では、そば屋が閉店、その後破産にまで追い込まれています。

そして今、バカッターの舞台はInstagramへと移りました。今回の不適切動画は、主にInstagramの「ストーリーズ」を使って行われています。そのため、今回の騒動は「バカスタグラム」とも呼ばれるようになりました。

前回の記事でお伝えしたように、ストーリーズは24時間で自動消滅するため、「どうせ消えるから」と気軽に投稿されます。ところが、他人のストーリーズもスクリーンショットで撮影したり、iPhoneの「画面収録」機能で録画したりすれば、保存することができます。本人はストーリーズに投稿しただけのつもりが、知り合いがTwitterに転載し、Twitterのフォロワーがリツイートし、さらにYouTubeにも転載され......と、簡単に拡散してしまいます。

不適切動画は、投稿した人の仲間以外にとってはただの「いいね」稼ぎができるコンテンツです。拡散は止まりません。やがてテレビにも取り上げられ、企業も対策に乗り出すことになります。

そして、投稿後いくら後悔しても、拡散してしまった動画をすべて消すことは不可能です。2013年のバカッターも、6年経っているにもかかわらず、ネットで検索すればすぐに画像がヒットします。問題行動を起こした人の氏名、顔もはっきりと残っています。就職活動など、今後の人生に影響している可能性は十分にあります。

不適切動画を投稿させないために

ところで、なぜこうした不適切動画を投稿してしまうのでしょうか。保護者の方なら普段の子どもたちを見ていて、推測が付くかもしれません。例え高校生や大学生でも、友人と遊ぶときは小学生のようにふざけて遊んでいます。もちろん、今回のように倫理的にアウトなことはしていないはずですが、普段の生活とまったく対極にあるとまでは思わないのではないでしょうか。

また、彼らはSNSを仲間内でコミュニケーションするものとして使っています。ストーリーズには「いま一緒に遊んでいる友人がこんなことしてる」と、ただ食事を取っている動画などを公開することは珍しくありません。知り合い同士の場合、リアルタイムで友人が何をしているか、わかるだけでも楽しいのです。なので、特に「いいねを稼ぐぞ!」といった意気込みもなく、自然に日常をシェアしています。仲間以外が自分のSNSを見ることは、ほとんど意識していないのです。

さらに、バカッターは2013年。高校生の人は小学生の頃です。今ほどスマホやSNSも普及していませんでした。もしかすると、テレビのニュースでバカッター騒ぎを見かけていたかもしれませんが、しっかり理解していた子どもは少ないでしょう。

高校では「情報」の授業で、炎上やリテラシーに関することを学びます。でも、授業でいくら脅かされても、自分の周囲で何も起きていなければ特にピンと来ませんよね。

今回は世間を騒がせる大ニュースとなり、前述のくらコーポレーションは民事、刑事での法的処置の準備に入ったことを明かしています。さすがに今、飲食店やコンビニでアルバイトをしている子どもは気を付けると思いますが、あらためて子どもに不適切動画が企業にどんな損害を与えるのか、そして自分の将来にも多大に影響する可能性が高いことなどを話してください。そもそも、食品を大切にすることや食事は清潔を保たねばいけないことは、基本的なことですよね。家庭、学校、そしてアルバイト先の企業が一体となって、まだ社会的な想像力が働かない子どもたちを正しい方向へ導いてあげられたら、と筆者は考えます。



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